東京高等裁判所 昭和26年(う)3216号 判決
原判決が被告人善之助の判示第三の事実を認定する証拠として挙示した椎名繁の検察官に対する供述調書及び堤たみの司法警察職員に対する第一回供述調書が刑事訴訟法第三百二十八条のいわゆる反証として提出取り調べられたものであることは所論のとおりであり、これらの証拠をもつて罪となるべき事実を認定することはもとより許されないところであるといわなくてはならない。
そして、右第三の事実に関してはそれ以外になんらの証拠も引用されていないのであるから、原判決は証拠能力のない証拠のみをもつて右の事実を認定したものというほかはない
もつとも、原判決は、その証拠説明の項において「被告人両名第二の事実は」「被告人椎名善之助第三の事実は」というように認定事実ごとに証拠の標目を別々に列挙した後、最後に「以上の各証拠を綜合考覈すれば右被告人両名の弁疏を排斥して判示事実全部を認むるに其の証明が十分である。」と記載しており、これによると、あるいは「第二の事実は」とある次に挙示した証拠をも第三の事実の証拠として挙示する趣旨であつたのではないかとの疑も一応生ずるのであるが、かくの如く認定事実ごとに別々に証拠の標目を記載する体裁をとつている以上、末尾に前記のような文言の記載があつたからといつてにわかにそのように解せられるものではなく、ことに前述の各供述調書は第二の事実の証拠としても別に挙示されているのであつて、このことからしても原判決の事実ごとに別々に証拠を挙示した趣旨であつたことが明らかであり「以上の証拠を綜合考覈すれば」というのは、その表現のしかたがやや曖昧ではあるが、各事実ごとに挙示された証拠をそれぞれ綜合すればという意味のものであると解しなくてはならない。
しからば前記の違法は判決に影響を及ぼすこと明白であるから、論旨は理由がある。